合気打法

打撃の神髄-榎本喜八伝

打撃の神髄-榎本喜八伝

「打撃の神髄 榎本喜八伝」という本を呼んだ。かつて大毎オリオンズ(今の千葉ロッテマリーンズ)で活躍した名選手、榎本喜八の打撃についての本である。榎本は、当時の野球に詳しい人であれば、「昭和30年代を代表するバッター」として必ず名前が出てくる人である。パ・リーグだったということもあり、長嶋茂雄王貞治ほど有名な存在ではないが、「大毎ミサイル打線」の中核を担い、名打者とよばれるにふさわしい活躍をした人である。イチローよりも1000本安打は、早く達成している。


この人の練習がたいへん興味深く、プロに入って成績の安定しなかった榎本は、コーチの荒川博の紹介で、合気道をはじめる。荒川博は、王貞治とともに「一本足打法」を生み出した人物として知られている。「名伯楽」という言葉があるが、荒川はまさにそんな言葉にふさわしい人物であり、この人もすごい人である。


榎本は、合気道の稽古を通して、


・臍下丹田に意識をおく
・全身の重みを下に置く
・臍下丹田と全身を意識で結ぶ


ということを学んでいく。そして、それに手ごたえをつかんで打撃が安定する感覚をつかむと、寝てもさめても、そのトレーニングを繰り返す。そして、ついに榎本の素質が開花して、打撃が開眼。名バッターとして名を連ねるまでに至るのだ。ほんのわずかの間だが、絶好調の時には「自分の内臓、筋肉、骨など身体の中がどうなっているのか全部分かった」そうである。


あと、この本で興味深かったのだが、後に榎本が自分のつかんだ「合気打法」を若い人たちに伝えようとしたとき、自分がつかんだ「丹田」や身体感覚などの話をしようとしても、若い人たちにはさっぱり受け容れられなかったとのことだ。残念なことではあるが、時代の流れというものもあるだろう。本物を伝達することは、やはり難しいのだろう。


それにしても、自分がつかんだ感覚を頼りに、徹底して身につくまで修練する榎本さんの姿勢というのは本当に素晴らしいと思う。