勝つことより負けないこと
すべてにおいて「勝つ」必要はないが、「負けないこと」は大切なことである。
勝負はルールに基づいた競争の結果である。
勝ちがあれば、負けがある。
ルールと競争の特性を熟知し、勝利に向かって自分をコントロールしていくことは、確かにおおいに意味のあることであるだろう。
しかし、中身のない表面的な勝利も勝利である。ここに大きな落とし穴がある。
内容のない単なる表面的な勝ちを求めることには意味がない。自分と同じように負けて傷ついている人もいるのだ。
大切なのは、勝負の中に、否、自分が関わる行為の中に中身があるかどうかであろう。
「負けないこと」は表面的な勝利を求めるといった記号的な意味での満足の追求ではない。
もっと人間の「生きる」という生命力の根幹に根ざしたものである。
死んだ人間はあっというまに腐敗し、その身体を構成している分子や原子は、土に帰っていく。
人間とて物質からできている。その物質である人体をバラバラに解体し、宇宙に拡散しようとする力は強大なものである。
でも、それに逆らって人間は生きているのだ。負けないように。
人間は、大自然の一員でもありながら、同時にあくまでも独立し、意思をもった一個の生命体でもある。
大宇宙に対し、人間を小宇宙になぞらえることは、よくできた考えだと思う。
しかし、どれだけ人間が大宇宙と一体化しようと、あくまでも一個の「生きる意志」は消えることがない。
それは、限界まで接近することはあっても決して交わることのない漸近線である。
負けるな。自分の生きる道を自分で選び取るために。