歴史を作らなかった人たち

最近読んだ本から。著者、桜井章一氏は麻雀の世界で無敗の「雀鬼」として知られる人。文章から伝わってくる、氏の人柄がとても魅力的なのだが、その中に書いてあった詩が素晴らしい。氏が沖縄のお弟子さんの家族がやっている料理屋に貼ってあったものだそうだ。


この世が完全であった時代には、誰も価値ある人間に注意を払うこともなく、能力ある人を敬うこともなかった。
支配者とは木のてっぺんの枝にすぎず、人民は森の鹿のようだった。
彼らは誠実で正しかったが、自分たちが『義務を果たしている』という認識はなかった。
彼らは互いに愛し合い、しかもそれが『隣人愛』だとは知らなかった。
彼らは誰もだますことはなかったが、それでも自分たちが『信頼すべき人間だ』とは認識していなかった。
彼らは頼りになる人間だったが、それが『誠』だとは知らなかった。
彼らは与えたり受け取ったりしながら自由に生きていたが、自分たちが『寛大』だとは知らなかった。
それゆえに彼らの行為は語られたことがない。
彼らは歴史を作らなかった。

                         〜詠み人知らず〜