総動員

100人いたら、そのうちの10人よりも100人分の力を利用した方が、間違いなく大きな力が生まれる。組織の構成員が、その力を十分に発揮するならば、人数が多い方が大きな仕事ができる。


これは、当然のことだが、身体の動きについても実は同じことが言える。例えば「腕を上げる」という動作一つとってもそうだ。もちろん単に肩の筋肉だけで上げるやり方もあるが、一見関係ないように思える腰や脚やふくらはぎといった他の部分の筋肉も「ベストな力の入れ方」というものが存在する。これらの下半身の筋肉を使った「腕上げ」は肩だけの「腕上げ」とは全く質的に異なるものとなる。


合気柔術合気道などではいわゆる「力」を使うと技が決まらない。この「力」は、「肩」だけとか、動きに使われる筋肉が単一的な場合である。全身の筋肉を総動員した時に美しくベストな技が決まる。もちろん全身の筋肉そのものを同時に意識することなど不可能であるから、感覚とイメージで動きを行うことになる。


一見関係ないように思えるところをいかに使っていくかが、上達の分かれ道ではなかろうか。この身体の原理は、そのまま人間が生きていく上での極意ともなる。人を見る眼や、組織を見る眼もこうでありたいものだ。表面的に目立つものだけではなく、それを支える目立たない力というものがある。全てを含んで人間は存在しているのである。