流れを読む

合気柔術のトレーニングは、相手の情報を読み取り、それに対してリアルタイムに適切な対応をすることである。情報は力の入れ具合であったり、「気」であったりする。押さえられているところの力や気の流れを読んで、自分の身体を運用して相手をさばき、制していくのである。


人間の自然の反応として、手首、肩、胸など自分の身体の一部を抑えられ、動きが拘束されると、身体は緊張し相手に反発しようとする動きが生じる。自分でも訳が分からないままに、力を闇雲に振り絞りほどこうとするのだ。しかし、もつれた紐を闇雲に力を入れてほどこうと頑張っても殆どほどけることがないのと同様に、相手に身体を押さえられた時も力をただ闇雲につかうだけでは、ほどけることなく却って相手の術中にはまってしまうことになる。


身体を抑えられたときにまずなすべきことは、力をつかってふりほどうこうとすることではなく、「相手の情報を読み取る」ことである。それには、余計な力が抜けていることが肝要である。力が入っていると、自分の感覚が鈍る。入っている力が、自分のものなのか相手のものなのか分からなくなって混乱してしまう。


感覚はできるだけ透明で研ぎ澄まされていた方がよい。ちょうど、波一つ立たない湖の湖面が鏡のように周囲のものを映し出すのと同様に、感覚が透明であれば、相手の情報が浮き上がり映し出されてくるだろう。


相手の情報を読み取ることができれば、後は自分がどう動けばいいか対策を立てることが出来る。


これは、そのまま心のトレーニングにも通じる。相手がどういう対象か、どんな人間でどんな情報を伝えたがっているかを明確に把握することが出来れば、それに対して適切なコミュニケーションを取れる道が見えてくる。


武術のトレーニングは、身体と心を両方同時に鍛えるものであるのだ。