重さを感じること

プレゼンスの状態を作るのに大切なのは「自分の身体の重さ」をしっかりと感じることである。


重さとプレゼンスの関係は、どうなのだろう。何故、重さを感じることが重要であるのだろうか、とつらつら考えてみた。


思うに、重さを感じられているというのは、「自分にかかっている力を自分で把握できている」ということである。この場合「自分にかかっている力」とは「重力」のことである。重力は、地球と地球上の物質との間に普遍的、恒常的に働く力だ。


物理学で考えられている力は全部で4つあると言われていて、それぞれ「重力」「電磁気力」「強い力」「弱い力」である。このうち「強い力」と「弱い力」は原子核などの極小の物質のレベルを考えるときに出てくる力(だったと思う)なので、人体に働く力という意味では考える必要がないだろう。「電磁気力」は電気と磁気に関する力のことであり、これは、人体にどのように働いているのだろうか。いわゆる「気の力」といったものはこれと関係しているかもしれない。


さて、重力である。生き物の進化は重力への挑戦と適応の歴史と言ってもよい。水の中に住んでいた魚が、親になると陸に上がる両生類となる。そこから、一生陸上で暮らす爬虫類を経て、哺乳類が生まれる。哺乳類は四足歩行から、類人猿の不完全な二足歩行を経て、現在の人類の完全直立二足歩行となった。


二本足で直立して立つ姿勢はかなり不安定である。そのため、全身の筋肉を駆使してバランスを取ることになる。ところが、現在の自分の姿勢と、自分にかかっている重力をしっかりと認識できていないと、脳がパニックに陥り、どこに力を入れたらいいのか分からなくなるのだろう。脳が正確な判断ができなくなり、「余計なところに力が入る」という現象が起こる。


太極拳の推手や組練習をやって、相手に崩されたときなどは、典型的にこの状態となる。自分が崩され、重心のコントロールを失うと、たちどころに身体の防衛反応で身体が固まってしまう。そして、ますます相手に崩されやすくなり、主導権を奪われてしまうのだ。


逆に、現在の自分の姿勢や状態と、自分に働く力(=すなわち重力)をしっかりと把握できていれば、どこの筋肉に力を入れたらいいのか、脳が冷静に判断することができる。必要最小限の力で済むということである。


これが、プレゼンスの状態ということだろうか。この状態は当然自然の力と一体だから「自然体」といってもさしつかえないだろう。そして、「筋肉の余分な緊張が心に与える影響」という観点で考えても、納得がいく。身体の余分な緊張があればあるほど、重力を使いこなせないことになり、地球と正しい関係が結べなくなる。そうすると、脳が混乱を起こし、自分をどう処していいのか分からず不安になってくる、ということだろうか。


いくら理屈を考えても、体現できなければ意味はない。実践あるのみ!