天の声

ヨーガに生きる 中村天風とカリアッパ師の歩み

ヨーガに生きる 中村天風とカリアッパ師の歩み

中村天風と言えば、ヨガを始めて日本に伝え、また成功哲学でも有名な人だ。ビジネスマン向けの書物にも、天風の言葉を集めたものが沢山出ている。親しみやすく、また心に響く言葉である。


さて、以前読んだ天風の本で、こんなエピソードがあったことを思い出した(私の記憶を元に構成しているので多少あいまいな記述がある可能性あり、お許しください)。インドの山奥で、修行する三郎(天風の本名)に、ヨガの師匠がこんな課題を出す。


「地の声を聴いてみろ」


それから三郎は、轟々と流れ落ちる滝の傍で瞑想にふける。修行を続けるうちに他のあらゆる音を掻き消すような、すさまじい滝の音の中にも、動物や虫の鳴き声が聞こえるようになってきた。「地の声」とは、地上の生き物の声のことだったのだ。


それから、さらに師匠は三郎にこんな課題を出すのだった。


「できたようだな。それでは、今度は天の声を聴いてみろ」


「地の声」は分かるが、「天の声」とは何なのだろう。三郎は今度はさっぱり分からなかった。それでも同じく、滝の傍で瞑想を繰り返す。でも、分からない。課題を出されてから数ヶ月。悶々とする三郎は、さすがに諦めかけた。


「ええい、もうどうにでもなれ」


とそのとき、「これだったのか!」フッと三郎に「天の声」が聞こえてきたのだ。


「天の声」とは何だったのか、それは「絶対の静寂」、「声なき声」、「永遠のしじま」とも呼ぶべきものだった。


「分かりました!」三郎の目からとめどなく涙がこぼれ落ちた。師匠も熱い涙を流している。「天の声」とは、人間がこの世界に何をしにきたのか、何のために生きているのか、その答えでもあったのだ・・・・・・


とまあ、こんな話である。ここに大事なヒントがあるのではないかとふと思ったのであった。


それは「聴こえる音の中にある、聴こえない音も聴く」ということ。聴こえない音も聴こうとすると、心が研ぎ澄まされ、クリアになってくる。この世界は雑音ばっかりだが、よーく耳を澄ましてみれば実に色んな音があることに気づかされる。